スンバ島イカットについて
伝統的でありながらバラエティーに富む様々な染織品がつくられ続けている東南アジアの中でも、インドネシアではイカット、バティック、プランギ、ソンケットなど、数ある島や地域ごとに魅力的な織物が生み出されております。 こうした織物の宝庫であるインドネシアにおいても、一枚の織物の中に、まるで絵画のように様々な文様(モチーフ)が躍動するように織り出されるスンバ島イカットは、世界的にも稀有な存在です。 スンバ島イカットの中に繰り広げられる文様(モチーフ)の多くには、様々な意味合いが込められております。 ここではスンバ島イカットの命とも言える文様(モチーフ)を代表的なものを例に、画像を添えてご紹介致します。 |
| 【注】文章や画像の無断転用・転載(引用)はお止め下さい。 |
スンバ島イカットの文様(モチーフ)について |
| 【スンバ島に伝わる風習による文様(モチーフ)】 |
| ◆首架文(スカルツリー/skull tree) |
今でも、ごく稀ではありますが、首架のために使用されていた木(枝)の残る村が残っております。 この首架文は、戦いでの勝利を祈願するために、古くからイカットの文様(モチーフ)として頻繁に織り込まれてきました。 謂れとしては少々恐ろしくもありますが、イカットに織り込まれた表情からは反対に可愛らしさも感じられるスンバ島イカットを代表する特有かつ人気の高い文様(モチーフ)の一つです。 |
![]() ↑ こちらは近年作のイカットに織り込まれた首架文で、下絵が描かれた後に括られるため、くっきりとしたとした表情が生み出されます。 良い首架文の条件は、(1)鼻が堂々としていてドッシリ横に広めになっていること、(2)それぞれの表情に可愛らしい笑顔が見られること、となります。 |
![]() ↑ こちらは約35年程前に作られたイカットに織り出された首架文です。 チャコペンが島で出回る前につくられたスンバ島イカットは、図案なしに全て織り手のイマジネーションによって括り織り上げられたそうで、少々表情などにホンワリとした素朴さが漂います。 |
◆パソラ(pasola) |
![]() 男性達が様々に飾られた馬に乗って槍を投げあう、年に一度の勇壮な騎馬儀式(祭り)です。 槍の刃は、現在では怪我をしないように細工されてはおりますが、やはり勝負事ということもあり、時おり死傷者が出てしまう事もあるそうです。 尚、パソラで人を殺してしまった場合は、合法であり罰せられることはないそうです・・・。 |
【外来の影響による文様(モチーフ)】 |
| スンバ島イカットのみならず、インドネシア各地でつくられる染織品にはインドや中国から伝播した文様(モチーフ)が描かれていることもあります。 またオランダ統治時代を物語る西洋的な文様(モチーフ)も存在し、インドネシアを取り巻いていたかつての状況を窺い知ることができます。 |
◆獅子(ライオン) |
![]() 1602年に設立された東インド会社によるオランダ統治時代の名残りが、この冠を被った獅子の文様(モチーフ)となります。 かつてのオランダ王国の紋章の獅子の部分の模倣で、獅子の頭上には、様々な形の冠が載せられていることが多く、オランダ王国の強い影響が垣間見られます。 その他にも、20世紀初頭に在位していたオランダ女王ウィルヘルミナが描かれたスンバ島イカットや、キリスト教の影響下によるクリスマスモチーフのスンバ島イカットなども見られます。 |
| ◆オランダ王国の紋章の模倣 |
![]() こちらもオランダ統治時代の名残りで、紋章全体を模倣したものです。 |
| ◆龍(ドラゴン) |
![]() ![]() スンバ島イカットの中には、様々な形の龍(ドラゴン)が登場しますが、大きく分けて、足の描かれていないもの、2本足のもの、4本足のものがあります。 蛇のように足の描かれていないものはインドから伝来したものと伝えられます。 また、4本足の描かれた龍は中国から輸入された磁器に由来するモチーフと言われており、比較的近年になってから用いられ始めたそうです。 |
| ◆パトラ(patola) |
![]() パトラとは、インドのグジャラート州パタンにて織られる絹の経緯絣(ダブルイカット)です。 17世紀頃からオランダ東インド会社の輸出品として東南アジアにもたらされ、その華麗な文様(モチーフ)は近世のインドネシアの染織に大きな影響を与えました。 その織柄の中の一つである華麗な花文様はインドネシアのイカットの中に用いれられるようになり、古くは王侯貴族にのみ許された禁制文様として、長く身分と権力の象徴と捉えられてきました。 また、このパトラの文様(モチーフ)はスンバ島のみならず、東南アジアの染織品の中にも広く見られます。 |
【スンバ島イカットの中の動物】 |
| 具象的なモチーフが躍動するスンバ島イカットの中には、様々な動物達が登場します。 その中でも頻繁に登場するモチーフをご紹介致します。 |
| ◆海老 |
![]() 海老は脱皮を繰り返しながら大きく成長していくことから、強い生命力の象徴とされ、生命の復活(再生)・不老長寿を表す文様(モチーフ)として、古来からスンバ島で好まれて織り続けられてきました。 |
| ◆蛸 |
![]() 足が再生することから、海老と同様に生命の復活を象徴する文様(モチーフ)です。 |
| ◆鶏 |
![]() 鶏のモチーフは天上界の象徴としてスンバ島イカットを代表する文様(モチーフ)の一つです。 王家の繁栄を願う文様(モチーフ)でもあり、中でも雄鶏は力強さを表す文様(モチーフ)として織り込まれます。 また、スンバ島では人は亡くなった後には一族の神として敬われますが、鶏は亡くなった人の魂の水先案内人とも考えられています。 |
| ◆馬 |
![]() 馬は最も神聖な動物として崇められ、かつては王侯だけが用いることができる禁制文様でした。 また、その後は富の象徴として表されておりました。 スンバ島は「スンバ馬」と呼ばれる小型馬の名産地として知られております。 右の2枚の画像の馬は、ランバと呼ばれる馬の冠が被せられております。 |
| ◆鹿 |
![]() 貴族階級が宗教儀式として鹿狩りをしていたため、文様(モチーフ)として織り込まれることがあります。 勇敢さの象徴と考えられております。 |
| ◆孔雀 |
![]() ヒンドゥー教の神スカンダの乗り物とされており、そのことからもインド由来の文様(モチーフ)と考えられます。 |
| ◆蛇 |
![]() 超能力があると信じられており、そのため天上界と他界との仲介者として考えられております。 また、女性の守り神ともいわれており、脱皮をする姿から生命の復活(再生)の象徴とも考えられております。 |
| ◆亀 |
![]() 貴族階級に許された文様(モチーフ)の一つで、長寿や来世への願いを意味します。 |
| ◆鰐 |
![]() 人が最も恐れる動物であった事から、権力者や畏怖を象徴します。また、水陸両生の能力から、2つの世界の調停も象徴します。 |
| ◆亀&鰐 |
![]() 亀と鰐を組み合わせることによって、王(ラジャ)をシンボルします。 |
| ◆魚 |
![]() 王家の繁栄を願う文様(モチーフ)とされます。 来世の幸せを願う文様(モチーフ)でもあります。 また、村人は団結して行動すべしという先人からの教えも込められているそうです。 |
| ◆猿 |
![]() スンバ島のマングローブには猿が住んでおり、身近な動物としてスンバ島イカットの文様(モチーフ)に織り込まれることがございます。 |
【人にまつわる文様(モチーフ)】 |
| ◆踊り |
![]() スンバ島でかつて行なわれていた首狩りの際に勝利を祈念する踊り、または勝利を祝う踊りを織り込んだものです。 |
| ◆人物像 |
![]() アニミズムの一環である精霊崇拝(祖先崇拝)によるもので、主に祖先を表したものが多く見られますが、中には赤ん坊を表す場合もあります。 |
| ◆嫁さらい婚 |
![]() スンバ島で伝統的に行われていた風習で、女性側の同意のもとに行われ、深夜に友人の力を借りて女性を連れ去り、後日その両親の家に結婚許諾の申し込みをしに行くという形式を取ります。 女性側の両親も、娘がさらわれることを前もって知っているそうですので、‘さらう’と言うよりも、結婚前に行なう一種の形式的な儀式上の駆け落ちとなります。 インドシナに住む山岳民族のリス族にも同様の風習があるようです。 |
| ◆神官/呪術師(プリースト/シャーマン) |
![]() ラジャ(王)の葬儀の際に、来世を祈るために生贄の鶏を携えている姿が織り込まれていることがあります。 |
【その他の文様(モチーフ)】 |
| ◆マムリ |
![]() ←実際のマムリの一種です。女性の子宮を模っており、女性を表すシンボルでもあります。 また、儀式を経て祖先(マラプ)の魂が宿り、超自然的な力をともなうとも考えられております。 大きさや素材は様々ですが、スンバ島では結婚時に男性から女性へマムリを型取ったペンダントをプレゼントする慣わしがあるそうです。 |
| ◆スンバ島イカットの中のイカット |
![]() 伝統的な民族衣装を纏ったスンバ島の人々の姿を始め、葬儀の際に長い織物を持って行列する姿などが織り込まれることがあります。 |
| ◆イマジネーションによるもの |
![]() 椰子の木陰でギターを奏でる若者と、それを聴いている女性。 素潜りをする人物など、作り手のイマジネーションの豊かさが垣間見られる楽しい文様(モチーフ)も見られます。 |
| ◆生命の樹(宇宙木) |
![]() 世界各地の織物にも見られる生命の樹のモチーフですが、白檀の産地であったスンバ島では白檀を表すこともあり、支配者階級の象徴でもあります。 |
| ◆s字 |
![]() 何気ないシンプルに見えるs字の文様(モチーフ)ですが、呪術的な意味を持つ特別な文様(モチーフ)と考えられております。 |
| ◆星 |
![]() 神を表す一環の文様(モチーフ)です。 |
| ◆空想動物(アナ・マハン) |
![]() 人と鰐、魚と獅子、人と獅子など、空想上の生き物が織り込まれることもあります。 |
| ◆ラジャの葬儀(ラジャ・ストーリー) |
![]() ![]() ![]() 村の長は、王(ラジャ)として村人達に崇められ、その葬儀は盛大なものになります。 スンバ島イカットには、そうしたラジャの葬儀の様子を絵巻のように一枚のイカットに描き出した「ラジャ・ストーリー」と呼ばれるものがあります。 左が葬儀の準備をする村人達、真ん中がラジャの棺を担ぐ村人達、右が長い時間をかけて作られたラジャのお墓となります。 |
ヒンギー(男性用腰巻/hinggi)の構成について |
ヒンギーとは、スンバ島で男性が着用するかなり大き目の織物で、腰布兼肩掛けとして使用されるスンバ島イカットの呼称です。腰機でこれ程の大きなイカットを一枚布として織り上げることは困難なため、同柄の2枚のパーツが真ん中で継ぎ合わせられていることが多い織物です。 このヒンギーにも伝統的な構成があり、布地の各場所によって意味するものがあります。 下の語句一覧は、代表的なライン状に文様を配したタイプのヒンギーについて表したものです。 もちろん各村によって、「マス目模様」などが伝統的な構成となっている等の相違もありますので、下の構成はあくまで代表的な一例です。 また、そうした村ごとの伝統的な構成を踏まえた織物の他、優れたイマジネーションを持った織り手によって、スンバの風習に基づくモチーフを一枚の布面にストーリー性豊かに織り込んだスンバ島イカットもつくられております。 【1】 ラ・パドゥア(王候・神)・・・中心部分の最も神聖な部分で、パトラ文様などが描かれることが多い。 【2】 タラバ・ディダ(貴族)・・・支配者階級を象徴するモチーフが描かれる。 【3】 ハイ(平民)・・・首架文や海老などのモチーフが描かれることが多い。 【4】 タラバ・ワワ(奴隷)・・・フリンジ上部の部分で、鉤文などの幾何学文様が描かれることが多い。 ヒンギーにはフリンジの上部にkabakilと呼ばれる特有のエンドボーダーが織り込まれることが多く、スンバ島イカットの味わいの一つとも言えます。 |
スンバ島イカットの染料について |
| スンバ島イカットに使用される主な染料は、スンバ島でコンブ(kombu)と呼ばれる茜科の木の根または樹皮、とウォラ(wora)と呼ばれる藍です。 スンバ島の村々を見た感じでは、この天然染料を使用するというこだわりは、他の島々よりも強いような気が致します。 |
ごく一部の例外を除いては、スンバ島では現在でも天然染料によるイカットづくりがほとんどで、村内や近隣などで育った植物によって染め上げられており、当店で取り扱っているスンバ島イカットも全て天然染料が使用されております。季節によって染めの回数や濃度も異なり、村によっては藍の配合はその村の女性の門外不出の秘伝であり、藍立てをする場所へは男性や観光客は立ち入り禁止となっている所もあります。 また、染めの前の括り作業は、モチーフを生き生きと克明に表すための重要なポイントとなりますが、現在では、一度にイカット10枚分程の糸を括ってつくられるものも増え(そのため、2枚と同じイカットはないと言われ続けてきたスンバ島イカットにも、昨今では同柄のものが見られるようになってしまいました)、そのためにモチーフのディテールがぼやけがちとなっているスンバ島イカットも多く見受けられるようになりました。 そんな中、伝統的な染織文化を絶やさないためにと、島内の村々を巡り歩いて細かに調査をし、一枚一枚を大事につくり上げるという伝統をふまえた染織活動を行なっている熱い思いを持った若者達も出始めております。 当店ではそうした活動に感銘を受け、伝統を踏襲しつつ創造性あふれる人々による良質のイカットを多く取り扱っております。 そして、こうしてつくり出されたスンバ島イカットを通じて、スンバ島の人々のイカットへのこだわりや浪漫、織物がつくり出されている遥か南の島スンバ島にも興味を持って頂けましたら幸いです。 |
【注】文章や画像の無断転用・転載(引用)はお止め下さい。 |

始めにお読み下さい










20世紀初頭まで、スンバ島では部落間での戦いの際に首狩りを行う風習が残っておりました。

























←実際のマムリの一種です。









ヒンギーとは、スンバ島で男性が着用するかなり大き目の織物で、腰布兼肩掛けとして使用されるスンバ島イカットの呼称です。
ごく一部の例外を除いては、スンバ島では現在でも天然染料によるイカットづくりがほとんどで、村内や近隣などで育った植物によって染め上げられており、当店で取り扱っているスンバ島イカットも全て天然染料が使用されております。
